ゆの里TOP >> コラム「「ガラスは水そのもの。 だから、ゆの里の仕事は運命ですね」」

「ガラスは水そのもの。 だから、ゆの里の仕事は運命ですね」

江藤さんのアトリエには、水をイメージしたオブジェも。

『ゆの里通信』Vol.18 あの人に会いたい
株式会社 アトリエ・テクノフォルム 代表 江藤 徳晃さん

とにかく水が好き。

宿泊施設「このの」のラウンジにあるガラスの壁面。収納棚を生かしつつ、見事に9つの水のキーワードが表現されています。

 端正なマスク。モデルのような容姿。「ゆの里」で初めてお会いした江藤さんの第一印象でした。神戸大学のツェンコヴァ教授から「ゆの里には不思議な水が湧いていて、これを説明するような曼荼羅というかアートをつくりたいから、来てほしい」と依頼を受けたのが2017年。スペースは「このの」1階のラウンジの壁面です。
 すでにここには、四角に区切った収納棚があり、それを壊さず生かした改装が条件でした。
 「ゆの里の水の不思議を星や月や太陽の存在ともリンクしつつ、人の願いや想いまで込められた壁面表現にまで昇華していく作業となりました。結果、空間の奥行きをしなやかに広げ、潤いと輝きを持つ水の光を湛えた「場」を創造出来たと感じています。なかなか納めたアートで、後々に反応を見ることは無いのですが、今回は多数のお客さまにもお褒めの言葉を頂き、誇りに感じています。
 予測していなかったのは、ガラスが四季の変化や光の移ろいによって金・銀・銅色に変化することでしたが、ゆの里のお水のテーマにはちょうどよかったと思います」
 江藤さんがガラスという素材に魅了されたのは、子どものころから「水」に親しんできたことが起因します。
 「海や川に潜ったり、とにかく水が大好きでした。水泳やダイビングを通していつも水がベースにあったのです。建築家の父がアメリカで学んでいたときの友人が、有名なガラスのアーティストで、私は大学では建築学科でしたが、卒業後、彼のもとに行きガラスを学びました。その後、アメリカやヨーロッパを探訪して建築空間を彩るガラス表現の道に進むことになりました。ガラスは、水そのもの」だと、江藤さんは言います。
 「温度が低いから、いまこうして固まっていますが、一旦、温度が上がればまったく水と同じ振る舞いをします。ガラスのほんのり緑色の色彩や透明感が美しいと感じる感性は、日本人が持つ深山幽谷への憧れや宗教観にあると私は感じます」
 神戸に住みながら、あの名門ホテル「リッツ・カールトン東京」のスイートルームのガラスアートや、大手不動産会社のマンションのガラスの壁面など、手掛ける仕事は多種多様。その作品群を見せてもらうと、確かに、ガラスの中に水を感じます。変容して新たなものに変化する柔軟性を持つ光る構造体。「水」だからこそ可能な表現です。
 そんな江藤さんが、「ゆの里 アクアフォトミクスラボ」(以下「ラボ」)の建設に携わるようになるまでには、ちょっとした紆余曲折がありました。

緑化は譲れない環境条件でした。

三井不動産レジデンシャルパークタワー晴海エントランス アートガラス

 当初、ラボの設計はもっとコンパクトなものでした。宿泊施設「このの」正面の第三駐車場の一角に、コンテナハウスを建てて予定地としたのです。ただし、その周りには緑の植栽を配して、全体のデザインを保てるように江藤さんは提案しました。
 しかし、いざ、土地の調査にかかると、「ゆの里」に湧くお水の流れが、考えていた以上に強く建物が造れないことがわかりました。
 「当時、ゆの里のグリーン環境整備に関しては、メンテナンスの危惧から反対されましたね。デザイン画も数回、却下されてました(笑)。土の問題、水、木の問題等、様々なご指摘もありましたので、このままでは理想の形には持っていけないかなぁと、感じていました」
 ラボの予定地は移動しても、その駐車場の全体は緑化したい。ラボまでつなぐグリーン環
境は、全体のイメージを左右する大きな要になるからです。
 「やはりここは庭の作り手に直に提案をしてもらおうと、私の仕事も高く評価してくれている造園会社、涼樹園の山中涼さんに会ってもらうことにしました。庭園の仕事では数々の賞を獲得しているアーティストですが、何よりもその情熱と想いを聞いてもらおうと」
 「ゆの里 アクアフォトミクスラボ」は、建築空間に月を内部に取り込んだ形状でデザインを進めていますが、庭園もそういう流れを取り込みたいと打ち合わせをし、両者で「ゆの里」にプレゼンテーションされました。江藤さんの言葉どおり、山中さんはひと目で、芯がある
〝男前〟だとわかる人柄。このプレゼンから、流れは大きく変わっていきます。
 「涼さんは、いま、月をコンセプトに庭をつくっています。完成予定は7月7日。庭の中央にはデッキを配し、ここで休んでいただけます。よく、お客さまから、まわりに行くところが何もないというのをお聞きするので、ゆっくり休憩できる場になればと。客室から見る景色も、よくなると思いますよ」
 いまある駐車場から、ゆるやかな弧を描いた小道を登るとお水の宿「このの」へ。月夜の晩など、最高のくつろぎスポットになる予定です。

世界的アーティストをゆの里に。

 ラボの建築予定地も決まり、外観も決まったあとで、最後にすごいことが待っていました。それは、江藤さんのニューヨークの友人が、ラボの建築設計に加わることになったのです。
 「2018年の1月にニューヨーク在住の、曽野正之さんご夫婦を「ゆの里」にお連れしたのです。曽野さんは、ニューヨークを拠点として活躍する建築家で、NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星基地設計の国際コンペで最優秀賞を取った人です。しかも、その内容が快適性を重視して、地下に基地は作らず、水を原料に三次元プリンターで凍らせながら建設するという手法で世界を驚かせました。アメリカや日本だけではなく、地球を代表する建築家です」
 そのクラウズ・アオ建築設計事務所が、アクアフォトミクスや「ゆの里」に湧く3種類のお水の不思議を聞いて、「ゆの里」の未来の創造に参加してくださることになりました。
 「実は、曽野さんのお父さまは、私の亡き父とは子どもの頃からの親友でご自宅も設計させていただいた関係であり、私もガラスの表面処理技術のことでよく伺っていました。その息子さんがニューヨークに行って建築家になっている。なんか、面白いですよね」
 曽野さんのことは、いずれまた『ゆの里通信』にご登場願って、みなさまにぜひ、ご紹介したいと思っています。
 それにしても、この展開。なんだか「ゆの里」、すごいことになっていますでしょ?
 ラボの建設計画が持ち上がったとき、江藤さんは持病の喘息の症状が悪化して、仕事に差し支えていた事実を、今回の取材で初めて知りました。
 「ガラスの壁面を作らせてもらって、お水のことはわかっていたつもりでしたが、それは頭だけの認識。本当の体感にはなっていなかったのですね。それから、すべての水を「ゆの里」のお水に切り替えて、一切、ほかの水は口にしていません。完全にステロイドから解放されて、家族もびっくりするくらい体調がいいのです。そのお水が、すべてアクアフォトミクスで証明できる。そして、商品化できるラボになる。このことは、すばらしいことだと思うのです」
 そして、一番大事なコンセプトはと、江藤さんは続けます。
 「ラボが出来ることで、科学でその素晴らしさが証明できるお水が湧くすごい場所なんだと、働く方々や地域の方々があらためて認識するきっかけとなって欲しいと考えています。それが良い循環となって世界に広がって行くことを切に願っています」
 環境が場をつくり、人をつくる。令和元年「ゆの里」は、さらなる次のステップに駒を進める未来元年でもあるようです。

  

  

江藤 徳晃(えとう のりあき)

1973年神戸市生まれ。1996年 大阪芸術大学建築学科卒業。幼少より世界の海をもぐり歩き、その体験で得た記憶をガラス素材で表現し始める。世界各国をガラス探訪し、世界的ガラス作家、トーマスパッティ氏に師事。ガラス素材の持つ奥深い世界に触れ、帰国後、ガラス素材での空間表現を志す。現在は、様々な手法で空間デザイン、素材表現を試み、納品までの一貫したディレクションも自らで行う。神戸在住。